保育園の開園・開業・建築の流れは、保育園の開業準備段階から、自治体の公募への申請、補助金・助成金の申請、土地・テナント探し、園舎の建築・建設工事、保育士や園児の募集まで、さまざまな工程を経る必要があります。

保育園の開園までにどのような工程の流れが発生するのかを事前に知っておくことで、ゆとりを持った計画を立てることができ、保育園の教育理念やこだわりの実現につながる効果が見込めます。

この記事では、保育園の開業・開園までの流れ、開園時期を左右する注意すべきポイント、実際の保育園開園スケジュールの事例などを網羅的に紹介しています。

保育園の開園・開業の流れとは?

保育園の開業・建築の流れは、保育園の開業準備段階から、自治体の公募への申請、補助金・助成金の申請、土地・テナント探し、園舎の建築・建設工事、保育士や園児の募集まで、さまざまな工程を経る必要があります。

認可保育園・認定こども園の場合、自治体が募集する事業者の公募スケジュールに沿って工程が進行します。そのため、各工程が発生するタイミングや期間を事前に把握し、必要な準備を整えておくことが重要です。

また、保育園の規模や運営形態、園舎を新築するか既存ビル内にテナントとして運営するかなどで、保育園の開園の流れは変化します。開園までの全体の流れを理解することで、保育園の教育理念やこだわりを検討するための時間を確保することにつながります。

保育園の開業・開園までの主要な流れ・スケジュール

保育園の開園スケジュールは、開園準備段階、設計・工事段階、開園段階の3つに大きく工程を切り分けることができます。保育園の開園までどのような流れが発生するかを知っておくことで、スムーズに準備を進めることができます。

運営事業者になるための応募や補助金申請といった自治体との協議業務は、園舎の設計と並行して進行することになります。園舎が完成した後は、開園のための準備期間をとり、備品の納入や職員研修を行う必要があります。

保育園の開業・開園までの主要な流れのフロー図
保育園の開業・開園までの主要な流れ

開園準備段階

開園準備段階では、社会福祉法人の設立や、運営事業者公募への応募が発生します。社会福祉法人の設立は、建設や運営に関わる補助金を受けるために重要な項目です。

認可保育園を開園するためには、自治体が公募する保育園新設案件に応募し、運営事業者として決定される必要があります。案件の内容により公募の時期は変動しますが、公募から約1~2カ月間の応募期間があります。

保育園の需要が特に多い地域では、自治体から募集期間を決めずに提案を募集している場合もあります。また、自治体によっては、提案応募時に既に認可保育園を1〜数年以上運営していないと応募できない場合があるため、確認が必要です。

運営事業者として決定がされた後に、園舎の設計を開始します。設計が終了した段階で建設費の算出を行い、補助金の申請を行います。建設を開始する前に補助金申請とその行政協議が必要になりますので全体工程を組む段階で注意が必要です。

項目概要時期
開業届の提出、社会福祉法人の設立社会福祉法人として保育園を開園するために、法人を設立します。公募前
資金調達・計画園舎建設のための自己資金や借入などの資金計画を立てます。4月
自治体の保育園事業者公募各自治体が、運営事業者の応募を行います。園舎を建設する地域や場所などが指定されて公募が行われます。7月
公募申請(応募)運営事業者として応募するための提案書を提出します。8月
事業者決定運営事業者として決定された旨の結果を受けます。10月
補助金・助成金申請建設費をもとに補助金の申請を行います。5月
補助金交付の内示補助金交付が決定され、工事着工が可能となります。6月

設計・工事段階

設計・工事段階では、設計図の作成や、施工会社の入札・選定が発生します。

土地探しやテナント探しは、運営事業者の応募時に保育園の場所を決めておく必要があるために重要です。運営に有効な立地条件や、テナントビルが保育園用途として使用可能かどうかの確認が必要です。

事業主になるための応募段階では、園舎の基本計画を提出する必要があります。基本計画は、平面図を作成する必要があり、子どもの収容人数や調理室や休憩室など機能面において考慮した図面とする必要があります。

設計図の作成では、基本計画で作った平面図をベースに、家具や設備などの具体的な事柄を決めて図面化していきます。

施工会社決定のための入札は、補助金額の申請とその決定についての内示が出た後に行う必要がありますので、規模に応じた工事期間を踏まえた工程の検討が重要です。

項目概要時期
設計事務所へ相談運営事業者に応募する段階で、建物の基本計画図の作成が必要となり、図面作成を設計事務所へ相談する必要があります5月
土地探し・テナント探し運営事業者応募段階で、園舎の場所を決定する必要があります。自治体が園舎建設を必要としているエリア内で土地やテナントを探す必要があります5月
基本計画の作成基本計画では、園児の人数をもとにした保育室面積の算出や、部屋の配置計画を行い、平面図を作成します8月
基本設計・実施設計基本計画の平面図をもとに、基本設計では家具の位置や水回り内の配置を考慮した計画を進めます。実施設計では、設備機器の詳細や建物の仕上げ材料などを決定していきます。10月開始
工事費の見積・積算実施設計が終了した段階で工事費の積算を行います。この金額をもとに、補助金の申請や入札の準備を行います。4月
施工会社の入札・選定各応募者が工事金額の見積を行い、入札において施工者を決定します。規模・金額に応じた見積期間が必要となります。6月
建設工事開園前の3月は開園準備期間となりますので、2月末の工事終了を目指します。7月着工

引越・開園段階

引越・開園段階では保育用品・消耗品の準備や、保育士・スタッフの募集・研修が発生します。

保育用品・消耗品の準備では、建物が完成した後に、室内化学物質測定(VOC測定)を行います。認可保育園として認められるためには、家具や備品が部屋にある状態でVOC検査を行う必要があるので、家具や備品の発注や製作の時期に注意が必要です。

保育士・スタッフの研修は、スタッフ同士のコミュニケーションを図ったり、消耗品の場所や設備機器の使い方を把握するために重要な項目です。研修期間を十分にとることは、ゆとりを持って子どもたちを迎え入れることに繋がります。

引越しでは、新しく購入した消耗品や、旧園舎から移動した物が、室内に混在してきます。日々の仕事が効率的にできるように、引越しより前に消耗品などの置き場所を決めておくことは大切です。

認可保育園の場合は、園児の募集を自治体が窓口となって行うため、事業者は実施しませんが、新規保育園をアピールするために、近隣関係者や卒園児の保護者が園舎を見学する機会を設けることは有効です。

項目概要時期
保育用品・消耗品の準備おもちゃや工作道具などの備品を準備します。開園準備期間に合わせて納品されるように発注します。1月
保育士・スタッフの募集・研修スタッフ同士のコミュニケーションを図り、設備機器の使い方や、消耗品などの位置を把握します2月
引越既存園舎から引越す場合は、新園で使用するものと廃棄するものを整理して、引越業者に伝えることが必要です。3月

保育園の開園時期を左右する3つのポイント

保育園の開園スケジュールは、自治体からの公募や運営事業者決定、設計図の完成や施工者の入札など、いくつかのポイントで流れが左右されます。これから紹介するポイントに注意することで、保育園の開園に向けて的確なスケジュール管理ができます。

ポイント1:公募・認可・補助金など各種申請スケジュール

保育園を開園するためには、公募や認可、補助金など、いくつかの申請が必要になります。

認可保育園・認定こども園の計画は、自治体から公募が出ることでスタートします。公募に対しては、法人の概要と共に、園舎の提案内容を申請し、自治体の審査を経て、運営事業主としての認可がおります。

認可保育園・認定こども園の場合、保育園の基本計画(収容人数や園舎の間取りなど)を作成して自治体に申請するため、申請する段階で建築士と計画を進めておく必要があります。また、助成金は建設費に関するものと運営に関すものに分かれていて、それぞれの申請時期や方法が異なります。

補助金概要申請先申請スケジュール
整備費に関する助成金設備費・イニシャル各自治体工事費の算出後に申請
運営費に関する助成金委託費・運営費・ランニング各自治体年度当初に交付申請

※申請スケジュールは各自治体によって異なるため、自治体に問合せが必要です。

ポイント2:開業する保育園の土地探し・テナント探し

保育園の公募申請には基本計画を作成する必要があるため、事前に保育園を開園する土地やテナントを探すことが重要です。

公募の募集要項には、敷地が決められていたり、開園するエリアが定められているので、募集要項をよく確認する必要があります。

保育園を開園する土地は、保護者がすぐ働きに行けるので駅に近いほうが人気があります。また、住宅地の場合は園児の声が問題となり住民から反対があることがあるので、近隣に丁寧な説明が重要です。

既存ビルにテナントとして保育園を開園する場合は、入居するビルが保育園として使用できるか、用途変更できるかを確認する必要があります。用途変更が必要な場合は、2方向避難、耐震性、バリアフリーなどに配慮が必要なため、ビル自体に改修が必要な場合はそのスケジュールも見込んだスケジュール管理が重要です。

ポイント3:設計事務所への相談や設計図の作成、施工会社の入札

保育園事業者の公募申請時に提出する基本計画に園舎の計画内容について記載する必要があるため、設計事務所などには事前の相談・設計依頼が必要になります。

基本計画のための園舎の設計は、新築の場合は半年以上の時間が必要になるため、公募が発表されたタイミングですぐに設計事務所に相談する必要があります。

すでに保育園が建っている敷地内に園舎を建て替える場合は、園舎の設計以外に、仮園舎の建設や園舎建設中の保育園運営などについて検討する必要があるため、ゆとりをもったスケジュールを計画することが重要です。

保育園の開園・開業・建築設計のタイムスケジュールの事例

保育園開園にあたってのスケジュールを事前に理解しておくことで、ゆとりをもった園舎計画が可能になります。

保育園は、園舎の規模によって設計期間や工事期間が変動します。また、行政の公募時期によって、設計期間や工事期間をどれくらい確保できるかが決まります。

ここでは実際の保育園の開園・建築設計のタイムスケジュールをもとに、保育園開園準備のために注意すべきポイントを、保育園の規模ごとに紹介していきます。

事例1:100人規模の社会福祉法人の保育園

社会福祉法人を設立して、100人規模の認可保育園を開園する場合のスケジュールを紹介します。

おおまかな流れとしては、自治体からの公募の後に、運営事業者として応募、決定した段階で設計が開始されます。設計が終了して工事費の金額を算出した段階で補助金の申請を行い、施工者の入札を行います。

このプロジェクトは、設計期間も工事期間もそれぞれ半年以上掛かりました。様々な案を提案しながら、保育園のご要望に沿ったプランを検討していきました。ご要望を実現するための打合せを重ねていくと、半年という期間は決して長くはありません。

また、施工者入札が不調になると、工事着工まで更に時間を要することになるので、それを見越したスケジュールを組み、4月開園に向けた計画としました。

100人規模の社会福祉法人の保育園における開園・開業・スケジュールのポイント

100人規模の社会福祉法人の保育園における開園・開業・スケジュールのポイント・効果は以下の通りです。

  • 運営事業者として決定した段階で設計が開始される
  • 工事費の金額を算出した段階で補助金の申請を行う
  • 多くのご要望を実現するには打合せを重ねる必要があるため、余裕をもったスケジュールを組む
  • 施工者入札の不調など、不測の事態も考慮したスケジュールとする
100人規模の社会福祉法人の保育園の開業・開園スケジュール事例
100人規模の社会福祉法人の保育園の開業・開園スケジュール

事例2:60人規模のテナント型の保育園

60人規模の認可保育園をテナントとして開園する場合のスケジュールを紹介します。

おおまかな流れとしては、自治体からの公募の後に、運営事業者として応募、決定した段階で設計が開始されます。設計が終了して工事費の金額を算出した段階で補助金の申請を行い、施工者の入札を行います。

この事例の公募は2次募集であったため、設計を開始する時期が通常より後ろ倒しとなりました。設計期間も工事期間もタイトなスケジュールになってしまうため、園舎設計の相談などはできるだけ早く事前に進めておくことをおすすめします。

通常のテナント型の保育園は、既存建物をベースにしてつくることになりますが、本計画は新築建物への入居のため、建物自体の工事と並行しながら保育園内装工事を進行しました。

建物本体が新築の場合は、内装工事が開始できる状態まで建物が仕上がっている必要があるため、本体工事とのスケジュール調整を綿密に行なう必要がありました。そのため、保育園の要望を建物の本体工事に要望しながら、多くの関係者との多岐にわたる調整事項を解決しました。

60人規模のテナント型の保育園における開園・開業・スケジュールのポイント

60人規模のテナント型の保育園における開園・開業・スケジュールのポイント・効果は以下の通りです。

  • 2次募集など公募時期が遅い案件は、できるだけ事前に設計の相談を進めておく
  • 入居する建物が既存か新築かによってスケジュールや調整項目が変動する
  • 既存建物に入居する場合、保育園として使用可能か法令上の確認のための期間が必要
  • 新築建物に入居する場合、建物の所有者と工事・管理区分などの協議調整が必要
60人規模のテナント型保育園の開業・開園スケジュール事例
60人規模のテナント型の保育園の開業・開園スケジュール

まとめ:保育園の流れを事前に理解し、不測の事態に対応できるスケジュールを立てよう

保育園の開園の流れは、保育園の規模や運営の方法などによって変化します。また、認可保育園・認定こども園の場合は自治体の公募スケジュールに沿った進行となるため、不測の事態を想定し、柔軟に対応できるようゆとりを持った計画を立てることが重要です。

この記事のポイントは以下のとおりです。

  • 保育園・認定こども園の開園・開業までの流れは、大きく分けると開業準備、設計・工事、引越・開園の3つに分けられる
  • 公募申請には、園舎の間取りや園児の収容人数などを記載した基本計画を作成する必要がある
  • 保育園を開業・開園する土地探し・テナント探しを早くから検討することで、園舎の設計やテナントの利用について検討する時間を確保することができる
  • 設計事務所や施工会社へ計画的に相談することで、保育園の教育理念やこだわりを園舎の計画として実現することができる
  • 保育園の規模や運営方法によって開園・開業の流れが変わるため、事前に全体のスケジュールを理解しておくことで不測の事態に対応できる

Office EAは、保育園の開園準備段階から、保育園・認定こども園の運営・経営の悩みや課題に寄り添い、教育理念やこだわりの実現をサポートいたします。保育園の公募や補助金の申請、土地・テナント探しなど、保育園の開園準備や計画に関してお困りの方は、お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください

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