改修設計とは、既存建物・建築物の修繕・更新・バリューアップなどを目的とする企画・計画・設計業務全般を指します。
建物の改修を検討する際、その目的によってアプローチは異なります。単なる老朽化対策から、収益性を積極的に向上させる投資まで、多様な選択肢が存在します。
この記事では、改修設計の概要、修繕・大規模改修・バリューアップなどの改修設計の種類と流れ、実際の改修事例を紹介しています。
ビルやホテル、保育園などの既存建物の改修を検討されている方や、具体的な事業計画や収支計画のサポートについて知りたい方は、「賃貸ビル・マンションの土地活用・企画・設計・不動産管理」「保育園・園舎の企画、設計、開園支援」のサービス紹介ページもあわせてご覧ください。

改修設計とは
改修設計とは、既存の建物や建築物が抱える課題や新たなニーズに応えるため、修繕・更新、性能向上(バリューアップ)などを目的として行われる設計業務全般を指します。単に老朽化した箇所を元に戻すだけでなく、建物が持つ価値を維持し、さらに高めていくための重要なアプローチです。
建物の状態や所有者の目的によって、改修設計が担う役割は多岐にわたります。例えば、経年劣化した部分を修繕して安全性を確保する工事もあれば、内外装のデザインを一新する改装、さらには建物の基本的な性能そのものを引き上げる工事も含まれます。これらを包括的に捉えるのが改修設計であり、この記事ではその目的別に大きく5つの種類に分類して詳しく解説していきます。
具体的には、「大規模改修」「バリューアップ」「修繕・更新」「用途変更」「検査済証のない建物の活用」といったケースが考えられます。これらの様々な目的に対応できることこそが、単なるリフォームとは一線を画す改修設計の大きな特徴と言えるでしょう。
改修設計は、建物の現状を正確に把握し、適切な事業計画を行うための専門的な業務です。それぞれの目的に応じた適切な設計を行うことで、建物を時代に合わせて最適化し、長く活用していくことが可能になります。

改修設計の種類とは?大規模改修やバリューアップなどの改修の種類を紹介
改修設計には、規模や目的に応じて大きく5つの種類があります。大規模改修、バリューアップ、小規模な修繕・更新、用途変更、そして検査済証のない建物の改修です。それぞれの特徴やメリットを理解することで、建物の運用目的に合った最適な改修方法が見つかります。
この記事では、建物の資産価値を最大化するための5つの改修設計について、特徴やポイントを抑えながら、改修設計を行う具体的な方法を解説していきます。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 大規模改修目的の改修設計 | 建物の経年によって避けられない物理的・機能的な劣化を計画的に食い止め、建物の基本的な資産価値を維持・保全するための計画的な改修。外壁や屋上防水など共用部が主な対象。 |
| バリューアップ目的の改修設計 | 建物の付加価値を高めることで、収益性や市場競争力を高める、投資的な改修。エントランスや内装、設備などを刷新し、物件の魅力を向上させ、賃料の増額や物件評価額の上昇により安定したキャッシュフローを生み出す。 |
| 修繕・更新を目的とした改修設計 | 特定の機能(空調、給排水など)を回復・維持するための改修。設備の寿命や故障が動機。建物の快適性や安全性を維持するための予防保全的な意味合いも強い。 |
| 用途変更を伴う改修設計 | 収益性の低下が起きた建物の用途を市場のニーズに合わせて変更し、新たな収益源を創出する改修。オフィスビルをホテルにするなど、建物全体に及ぶ改修。用途変更により、変更後の用途に適用される法規を満たす必要がある。 |
| 検査済証のない建物の活用を前提とした改修設計 | 検査済証がなく改修や融資に制約がある建物を、法的に適正化することで建物の価値を再生するための改修。ガイドライン調査とそれに伴う適正化工事によって改修が可能となり、建物の収益化につなげることができる。 |
大規模改修目的の改修設計
大規模改修目的の改修設計は、建物の経年によって避けられない物理的・機能的な劣化を計画的に食い止め、建物の基本的な資産価値を維持し、安全性を確保する改修設計です。
大規模改修は、多くの場合「中長期修繕計画」に基づいて計画的に行われる包括的な工事です。専門家による詳細な建物調査診断を行い、修繕・改良すべき箇所や工法の特定が必要です。
築12〜15年周期での実施が推奨されており、特に外壁や屋上、共用部分といった箇所の機能・性能を回復させ、居住者の安全と快適な生活環境を守ることを目的とします。同時に、建物の劣化を放置することによる資産価値の低下を防ぎ、長期にわたって健全な状態を維持することにつながります。
大規模改修目的の改修設計により、建物の経年劣化に対応し、建物の寿命を延ばし、資産価値の維持・向上が可能になります。


バリューアップ目的の改修設計
バリューアップ目的の改修設計は、単なる原状回復にとどまらず、時代のニーズや入居者層の変化に合わせて、建物の付加価値を高め、賃料の増額や入居率の向上、競合物件との差別化を目指す改修設計です。
特に賃貸マンション・アパート、商業ビルなどに有効で、不動産としての収益性向上を直接的な目標として改修を行うことで、競争力を回復・向上させる手段となり、賃料の増額や物件評価額の上昇により安定したキャッシュフローを生み出します。
具体的には、建物の第一印象を刷新するエントランス内装の改修、老朽化した設備の更新など、不動産としての魅力を高める工事が挙げられます。空室が目立つ、あるいは周辺の類似物件と比較して魅力が低下している場合に、競争力を回復・向上させる手段となります。
機能面だけでなくデザイン面もカバーするなど、費用のかけどころを見極める効果的な設計が得意な設計事務所に依頼することで、限られた費用の中で施設の価値を最大化した改修設計が可能になります。
バリューアップ目的の改修のイメージ。限られた予算の中で改修要件を満たし、デザイン面を考慮した提案を行うことで、建物のバリューアップが可能になります
修繕・更新を目的とした改修設計
修繕・更新を目的とした改修設計は、建物全体を対象とする大規模修繕とは異なり、建物の機能や性能に不具合が生じた特定の部分を、部分的に修理・交換(修繕)、またはより新しい性能のものに取り替える(更新)ことを目的とした改修設計です。
建物の種類や築年数に関わらず、継続的な維持管理の一環として必要となる最も基本的な改修であり、具体的な改修内容として防水の修繕、給湯器や空調設備の交換、外壁タイルの部分的な補修などが該当します。建物の快適性や安全性を維持するための、予防保全的な意味合いも強い改修です。
突発的な不具合への対応から計画的な設備の更新までその範囲は多岐にわたりますが、専門家や設計者の定期的な調査を行うことで、日常利用への影響を最小限に抑え、効率良く改修を行うことが可能になります。
修繕・更新を目的とする改修設計は、建物の機能や性能に不具合に対して部分的に修理・交換や取り替えを行うことで、建物の安全性や快適性を向上させる改修設計であり、高いコスト効率で実施することが長期運用の観点で重要です。
用途変更を伴う改修設計
用途変更(コンバージョン)を伴う改修設計は、オフィスビルをホテルにするなど用途の転換を伴う設計です。地域での需要の減少や、収益性の低下が起きた建物の用途を市場のニーズに合わせて変更し、新たな収益源を生み出すことが用途変更の主な目的です。
用途変更を伴う改修設計は、解体・新築に比べて低コスト・短工期で事業転換できるメリットがあります。一方で、用途変更に伴い建築基準法や消防法で定められた構造、避難経路、耐火性能、採光、換気などの要求水準が大きく変わるため、変更後の用途が法的な要件を満たせるか、高度な法規知識や設計技術を有する専門家による調査が不可欠です。
特に、建築物の用途変更によって、建築基準法第6条第1項第1号の特殊建築物(ホテルやシェアハウス、福祉施設(保育園など)などの不特定多数の方が利用する用途)の用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超える場合には、建築基準法第87条の規定により用途変更を行う前に確認申請手続きが必要になり、高度な法規知識と設計技術が求められます 。
用途変更を伴う改修設計では、高度な知識や技術を持った専門家とともに計画することで、建物の需要を市場に適合させ、収益性を高めることが可能になります。
検査済証のない建物の活用を前提とした改修設計
検査済証のない建物の活用を前提とした改修設計は、建物を法的に扱える状態へと是正することを目的とした設計です。これまで活用が難しかった建物の価値を再生し、新たな可能性を引き出すことを目的とします。
建築基準法上、「検査済証」がない建物においては、国土交通省が指針を示した「ガイドライン調査」に則り、設計事務所と指定確認検査機関が協力し、建物が建設当時の法規に適合していることを詳細な調査や適正化工事を通じて証明します。そして現行法規の安全基準(構造耐力、防火・避難など)に照らし合わせても危険性がないことを客観的に証明する必要があります。
調査の結果、もし耐震性や防火・避難規定などで法的な不備が確認された場合、不適合な部分に是正設計や改修工事を行い、法的な整合性を確保することで、増改築や用途変更が可能になります。増改築や用途変更などの改修により建物の収益性を上げたり、利用効率の向上に繋げることができます。
検査済証のない建物であっても、専門家による調査と適切な是正設計・改修工事によって法的な整合性を確保することで、増改築や用途変更が可能になります。その結果、増改築や用途変更などの改修により建物の収益性を上げたり、利用効率の向上に繋げることができます。
改修設計の主な業務内容と流れ
改修設計を行う場合のプロジェクトの流れについて紹介します。
近年、マンションや複合ビル、保育園などで改修設計を行う事例が増えてきています。建設資材費の高騰などが影響し、新築プロジェクトでは採算が合わないため、改修を行う上で適正な予算策定やスケジュールの検討に関する問合せが増加しています。
以下は改修設計の主なサービス内容と流れです。クライアントへのヒアリング、調査・診断、設計、工事監理、アフターケアなど、幅広くあらゆるフェーズにおいて設計事務所のサービスを受けることが可能です。

Office EAでは、相談・ヒアリングから竣工・引渡し・アフターケアまでプロジェクトに関わります。改修設計の費用対効果を上げるため、特にヒアリングと実施設計を重視しています。
ヒアリングでは、「あと何年運用するか」「将来、売却するか」といった改修の目的を明確にし、設計内容(改修すべき範囲)を調整します。これにより、将来を見据えた適切な投資計画を立てることができます。
実施設計では、限られた予算の中で費用対効果を最大化するため、どこに投資しどこでコストを抑えるかを判断します。既存部分を安易に壊さず補修して活用したり、人が触れる箇所と見えない箇所で投資にメリハリをつけたりといった工夫により、限られた予算内でグレードの高い改修を行います。

改修設計の事例紹介
このサイトを運営するOffice EAによる、実際の改修設計事例を紹介します。ホテル、保育園、マンションといった改修設計事例について、プロジェクトの概要やポイントをまとめています。
改修設計事例:検査済証のないビルをホテルへと用途変更・適法化した事例
検査済証のないビルをホテルへと用途変更・適法化した事例です。事業者様が購入した収益用ビルを、新たな宿泊施設として再生させる計画をご依頼いただきました。
プロジェクトの事業性を高めるため、法適合調査と同時に市場分析を実施しました。その結果、競合の少ない「ミドルクラス」の宿泊施設に商機を見出し、単なるホテル化ではなく、カプセルホテルを併設することで多様な客層を呼び込む収益計画を立案しました。
また、事業者様の事務所を建物内に残すため動線を分離させ、複合的な用途を両立させる設計としました。法規制への適法化、市場ニーズに適した用途変更、事業者様のご要望を改修設計の計画に統合し、既存建物に新たな価値と収益性を与えることに成功しました。
適法化については、適法改修の専門家である建築再興企画さまと協働し、Office EAは、基本設計、実施設計、確認申請を実施しています。

改修設計事例:かつしか風の子保育園 大規模改修工事事例
東京都葛飾区の保育施設において、竣工後10年を迎えた大規模改修の計画を支援した事例です。私たちは当施設の新築時にも設計として携わっており、建物の特性を深く理解した上でプロジェクトをサポートいたしました。
経年劣化に伴う防水・外壁塗装工事を基本としながら、職員の方々へのヒアリングと専門家による現地調査を並行して実施。例えば、一見すると軽微な「床の雨染み」から、その根本原因である鉄扉からの雨水侵入を特定・対策するといった、日常の不便な点や潜在的な不具合といった課題も抽出し、施設の機能性と安全性を高める、より包括的な改修計画を立案しました。
また、葛飾区の改修補助金制度を活用して事業主様の費用負担を軽減しました。さらに、煩雑になりがちな施工者選定の入札要件の整理もサポートし、適正なコストで質の高い工事を実現するための体制を整えました。
新築時から建物を熟知した知見を活かし、補助金活用や入札要件の整理まで、保育施設の大規模改修を一貫して支援しました。単なる修繕にとどまらない機能性・安全性の向上を実現しながら、事業主様の負担を軽減し、資産価値を守る改修に貢献しました。

改修設計事例:社員寮から店舗・事務所・共同住宅の複合用途へと用途変更した事例
社員独身寮から店舗・事務所・共同住宅の複合用途へと用途変更した事例です。Office EAは発注者から相談を受け、建物調査と用途変更をご依頼いただきプロジェクトをサポートいたしました。
元は食品会社の社員寮だった建物から、店舗と事務所、共同住宅を複合した用途に変更を行い、収益物件化しました。可能な限り既存居室を残したまま用途変更を行う計画とすることで、費用対効果の高い改修計画を立案しました。
また、既存階段が避難上有効に使用できないため、用途変更による法的な要求水準を満たせない状態でした。そのため、店舗内に階段を新設し、他用途からは非常時のみ使用できる計画とすることで、適法化した用途変更が可能な計画としました。

改修設計事例:マンションにおけるバリューアップ目的のリニューアル
マンションにおける小規模更新時のリニューアルの事例です。経年での劣化が見られたため改修を行いました。一般的には防水工事などを行いますが、エントランスや外観の改修を重点的に行うことでマンションの付加価値を高め、バリューアップを実現しました。
既存タイルの全面撤去は行わず、ごく一部の張り替えと塗装工事を行うことで、工事費を抑えつつ、時代に合わせた印象の建物に仕上げました。
小規模更新時でも、デザイン性を加えた計画とすることで、工事費の増額なしにバリューアップが可能になります。外観やエントランスなどの共有部の改修を重点的に行うことで、建物全体のグレード感を飛躍的に向上させ、入居率の向上に繋げました。

まとめ:改修に精通した設計者を活用して、建物の付加価値を高める改修を実現しよう
改修設計について、改修の種類毎の目的や流れを理解しておくことで、適切な費用感で設計を依頼することができ、適切なスケジュール・工事費で改修プロジェクトを実現する効果が見込めます。発注者が改修設計について適切な判断を行うために押さえておくべきポイントは以下の通りです。
この記事のポイントは以下のとおりです。
- 改修設計とは、既存建物・建築物の修繕・更新・バリューアップなどを目的とする企画・計画・設計業務全般を指し、目的や建物の状態により様々な方法がある
- 定期的な大規模改修により、建物の経年劣化に対応し、建物の寿命を延ばし、資産価値の維持・向上が可能になる
- 収益性とデザイン性の両立が可能な設計事務所に依頼することで、原状回復にとどまらない、限られた費用の中で施設の価値を最大化する改修設計につながる
- 用途変更を伴う改修設計は、法的な要求水準が変更されることがあるため、高度な法規知識や設計技術を有する専門家による調査が不可欠である
- 検査済証のない建物であっても、専門家による調査と適切な是正設計・改修工事によって法的な整合性を確保することで、増改築や用途変更が可能になる
office EAは、改修設計の企画段階から、悩みや課題に寄り添い、収益性の高いビルやホテル、保育園などの既存建物の改修をサポートいたします。ビルやホテル、保育園などの既存建物の改修や賃料収入を最大化した改修方法に関してお困りの方は、お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。

改修設計に関する事例・リンク
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